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たまに日記、たまに月記。

2024

0518
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2007

0602
今更例の小堤バカの話。むしろ私がバカだ。小堤バカだ。本望だ!
若干気味の悪いくらい小堤も渋沢も頭悪そうなので要注意です。


↓↓↓


[  光は満ちて  ]

「なぁ」

ソファにごろりと横になったまま、雑誌をめくる手だけ止めて小堤は
渋沢を仰ぎ見た。奔放に投げ出されている足が風邪を引いてはいけ
ないと、ブランケットを持ち出した渋沢の手が中途に止まる。

「なんだ?」
「もうこの際さ」

再び切れた言葉の先を継ぐ前に、小堤の目線が雑誌に戻る。
開かれたままになったページは主に白とピンクで構成されていて、
渋沢が見たこともないほどのフリルやリボンがかさばっていた。

複雑な予感がした。
そうとしか言いようのない感覚だった。

渋沢は自分の予感だとか予想だとか、そう言ったものにただひとつ
サッカーを除いて信用がなかったが、この時ばかりは良いとも悪いとも
言い切れないがもやもやと揺らぐ己の予感に眉を顰めた。


しかし小堤は容赦ない。
渋沢の手が力をなくし落としたブランケットを巻き込んで、足をばたばた
行儀悪く揺らしながら指さす先には、白やピンクのフリルやリボン。

「結婚しちゃわないか、俺たち」

そんな馬鹿なと渋沢は思ったが、これまで小堤を愛し慈しんできた習慣が、
つまり甘やかし癖が悪かった。小堤がしたいと言うことは絶対だったし、
欲しいというものは何より優先順位が高くなる。
物欲が比較的乏しいのはお互い様で、ならばと時には小堤が口に出すことを
しなくても渋沢は望みを叶えて見せてきた。音にされた欲求ならば尚更だ、
何に置いても小堤を幸福にするよう努めてきた渋沢に選択肢などない。


「小堤」

平然と落ち着いているようだった肩がびくりと揺れる。名を呼ばれれば躊躇なく
合わせられる目が今日に限って雑誌に向けられたままだ。平静を装うためか
あまりに不自然なタイミングで小堤はページを一枚めくった。そこも白とピンクの
溢れるコラムで埋め尽くされていて、そのためだけの雑誌だとすぐに分かった。

さも思いつきのように小堤は言ったが、自分で買ったのかそうでないのか、
とにかくそれを言うためにその雑誌は用意されたのだ。

「・・・小堤」

今度は躊躇いながらも目が向けられる。不安や怯えや迷いや惑いが
綯い交ぜになって揺らいでいたが、その中でも特別奥の方で灯る
小さな期待の光に、渋沢は完敗した。

こういうことは冷静に、先のことまで見据え、お互いの利益や幸福を確認した
その上で考えるべきだと渋沢には分かっている。しかし脳内に響く警鐘さえもが
心地よく甘い音色に聞こえる頭では、そもそも迷うこと自体が難しい。


家を建てよう。小さな家でいい。
犬を飼おう。小堤の好きな大きな犬がいい。
許されるならいずれ子も欲しい。


「幸せにするよ」

万感の想いを込めて答えを返す。
一瞬かちりと動きを止めた小堤が、いつものように照れ隠しに
怒り出すかと渋沢は思った。しかし、

「ありがとう、ありがとう、俺も」

続きは涙に掠れて消えた。

ああ、愛するこの子は今、幸福なのだと、
渋沢は確かめ、その手を取って、誓う。


愛しているよとは言わないけれど、いつまでもいつまでも
あなたの幸福を、守り続けよう。

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